『リバーベイルの思い出』『崩壊』

リバーベイル関連本です。『リバーベイルの思い出』はケイノス市内のオブジェクトから、『崩壊』はりバーベイルのオブジェクトから。
レザーフット・ブリゲード物語とか読むと、食べることとおしゃべりが大好きという能天気なイメージの強いハーフリングなのだけど、こういうときのタフさはさすがって感じです。

『リバーベイルの思い出』

“戦禍の時代”、多くの勇敢なハーフリングがリバーベイルとミスティーの雑木林を守っていた。この物語はミスティーの雑木林を守る者たちの話である。
オークの姿を見たときに前週、リバーベイルで聞いた話を思い出した。ゴブリンとオークがNorthlandで手を組んで、“地獄の軍団”を結成したという話だ。壁が壊され、大群がミスティーの雑木林になだれ込んでいく様子を見て、GemmaはNorthlandだけの話ではないと感じた。すっと体の向きを変えた彼女はリバーベイルへと向かった。この脅威を誰かが伝えなければならないのだ。
いくつもの矢が彼女の横を通りすぎていった。Gemmaはこれほど速く走ったことは今までなかった。飛んでくるものは茂みの中に飛び込んでかわしていった。戦いの音は小さくなったもののまだ聞こえていた。オークがなぜこんなにも長い間秘密を守れたのか不思議だった。リバーベイルの郊外まで来た彼女は立ち止まって、息を整えた。そしてこれからもう見ることができなくなるであろう懐かしい風景を目に焼きつけていった。
Gemmaは街のあちこちを回り、壁が壊されたという知らせを叫んでいった。まだリバーベイルにいたレザーフット・ブリゲードの部隊が、彼女の横を通りミスティーの雑木林へと向かっていった。Gemmaは自分の家の玄関の前で立ち止まった。汚らわしいオークが彼女の宝をあさることなど許すわけにはいかない。彼女は武者震いをしたあと、叫んだ。「Gemma Pathfinderを倒してから行くがいい」
彼女には無駄にする時間などなかった。家に飛び込んだGemmaは、母に対して子供たちを連れてフリーポートに行くように叫んだ。「どうしたの、Gemma?」母親は尋ねた。しかし、彼女の恐怖に満ちた表情で、すぐに状況を理解した。2人は抱き合った。Gemmaは弟や妹たちの頭にキスをしていった。そして大事なものが入っているかばんを開け、ツタの模様が入った革の上着を取り出した。戦うときに着るものだった。
「フリーポートで必ず会おうね。気をつけるのよ、Gemma」母はそう言ってキシコールの森へ向かう他の家族たちの列に加わった。Gemmaは小さな声で言った。「オークの魔の手がまだ届いていませんように」彼女が生まれてからずっと住んでいた部屋をもう1度見た。椅子は引っくり返り、朝食は食卓の上に残ったままだった。「さようなら」小さな声でそう言って、ドアを閉め、生まれて初めて家の鍵を閉めた。
リバーベイルにいる者全員が走り回ってるかのような騒ぎだった。Gemmaは兵士の集団に加わり、再びミスティーの雑木林へと向かった。しかし敵がこちらに向かってくることを考えると、その場に留まっていてもよかったのかもしれない。結局リバーベイルで戦うことになるのだから。黒い煙が空に上った。侵略者たちはミスティーの雑木林に火を放ったのだ。逃げたいという気持ちがGemmaを襲った。家族のところに行き、守らなければと思った。彼女は走るのをやめた。
騒音に紛れて胸を引き裂くような叫び声が耳に届いた。音の聞こえたほうに向かうと、リバーベイルの校舎の入口へと着いた。そこでは校長が座って、涙を振り払うよう体を揺らしていた。Gemmaはあえて厳しい口調で言った。「立つのよ、Winda。子供たちを連れてここから出るのよ!」」Windaは頭を横に振り、言った。「子供たちは皆避難できたわ。でも、私は怖くてしかたがないの!」
GemmaはWindaを立たせ、手を握りながら言った。「大丈夫よ、Winda。他の家族と共にフリーポートに向かいなさい。そこでも先生は必要になるはずだわ」彼女はできるだけ明るく振る舞いながら、Windaを町の外へと連れていった。Gemmaは「年長の生徒用の教室が作れるかもしれないわね」と言った。年長の子供が年少の子供の邪魔をすることにWindaがいらだっていたことを知っていたのだ。
「それはいいかもね。Gemma、ありがとう」Windaは鼻をすすって、笑顔を見せた。戦いの音がさらに大きくなってきた。「私は逃げてはだめ。私は……」Gemmaは逃げたいという気持ちと戦っていた。Windaの手を取り、キシコールの森へと続く道を進んでいった。道にはほとんど人がいなかった。「他の人はもう先に行ってしまったようね……」Gemmaは言ったところで、足を止めた。前方に5、6匹のオークが立っていたのだ。
「Winda、逃げるのよ!」GemmaはWindaを今来た道へ押し返した。ショートソードを取り出し、足をしっかりと踏ん張ってオークのほうを向いた。Windaは叫び声を上げて逃げ始めた。その声で、いままで彼女たちに気づいていなかったオークがこちらを向き走ってきた。オークが投げた槍が、Gemmaの肩に突き刺さった。彼女はその場に倒れていくときに思った。「眠るときと同じような感覚ね……」

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『崩壊』

変化は不可欠である。しかし、“破滅の時代”に我々が経験したような規模の変化を、誰が予想したろうか。これは、“戦禍の時代”を戦い抜いた兵士の物語である。彼は自分の家に戻り、それを建て直すが、その他のものはすべて崩壊してしまったことを知るのである。
彼らは日々、自分たちの幸運をかみしめていた。リバーベイルとミスティーの雑木林は“戦禍の時代”のあいだホード・オブ・インフェルノに侵略されたが、その占領統治はそれほど長くは続かなかった。そして再生は、オークやゴブリンの死体がまだくすぶっているあいだに始まったのだった。ラニーアイのゴブリンたち、正確にはその残党たちは、泣く泣く元の洞窟に逃げ帰っていったのである。ハーフリングは平和な時代の到来を待ち望んでいた。
もちろん、平和も戦争も、相対的な概念である。時折の小競り合いは、当然起こった。だから以前はかぎをかけるなどという習慣のなかった人々が、今では夜になるとドアと窓を閉め、しっかりとかぎをかけるのだった。レザーフット・ブリゲードも、徐々にその形を取り戻しつつあった。そしてケイノスとフリーポートをほとんど飲み込んでしまうほどに広がった不屈の戦争を戦った人々が次々と故郷に帰ってきて、戦争の恐ろしい話を物語るのだった。その話は暗い夜をますます恐ろしげなものにし、それを聞く人々は安全な家にいることの意味をつくづくとかみしめるのであった。
Gemma Pathfinderの肩は、天気が東から変わるときにはいまだに激しく痛んだ。人々は好んでリバーベイルがホード・オブ・インフェルノに襲われた最初の日々の話をしたが、彼女はそれに加わるのを好まなかった。あのとき、彼女は自分が殺されることを確信した。しかし、なぜか彼らは彼女を殺さず、意識を失ったままの彼女を道に放り出してそのまま進軍していったのである。Gemmaは幸運な生存者の1人だった。振り返ってみても、あれは運だったと言えるだろうと思う。
最近になって、肩の痛みはますます強くなってきた。戦争中、彼女は若かったころに比べてゆっくりとしか歩けなかった。しかし、それでも彼女は生き延びて、オークが倒され、敗走していくさまを見ることができたのを感謝していた。戦争が終わった今、彼女は懐かしいリバーベイルに帰ってその再興を手伝っていた。あるとき村人たちが死者の霊を慰めるために記念碑を造ることを提案したが、彼女はリバーベイルを再興すること以上にふさわしい記念碑はないと言った。そして、それはそのとおりだった。
ミスティーの雑木林の木々のあいだを歩きながら、GemmaはふたたびBristlebaneに幸運を感謝した。彼女は、木々に周りを囲まれた小さな丘の上に立ち止まり、息を整えていた。痛む肩をさすりながら、Gemmaはゆっくりとあたりの木々を見渡した。「おかしいわね」彼女は思った。わけがわからなかった。「なんで鳥が鳴いてないの?」緊張が彼女の背筋を走った。また、襲撃されているのだろうか?
困惑した彼女が木々を見ると、そのこずえがゆらゆらと揺れているのに気がついた。初めはその動きは小さなものだった。鳥を探そうとじっと木を見ていたからようやく気がつくほどのものだった。その次の瞬間、木は大きく揺れだした。耳をつんざくような大きな音とともに、地面が激しく揺れだしたのである。丘の上に立っていたGemmaは、立っていることができずに地面に投げ出された。緑の植物の下で地面が波打ち、のたうつのがはっきりとわかった。
地面は揺れつづけた。あまりに長いので、Gemmaはノーラスがばらばらになってしまうのではないかと思った。ゆさゆさと揺れていた木々が、ついに耐え切れなくなって小枝のように折れた。突然Gemmaは自分の下の丘がきしりながらせり上がり出したのを感じた。大きな土のかたまりが盛り上がっていく丘の斜面を滑り落ちだした。それはまるでケーキの上にかけたチョコレートシロップが流れ落ちていくようだった。
Gemmaの目は恐怖に大きく見開かれた。しかし、こののた打ち回る地面の上で生き残るには平常心を失ってはいけないことを、彼女は知っていた。ゆれが収まると、彼女はゆっくりと起き上がり、周りの様子を見まわした。大地はいたるところで引き裂かれ、緑の草地の中に土色の傷がぎざぎざと走っていた。何年も前にオークやゴブリンたちの放った火を生き延びた大きな木も、無残に折れてしまっていた。
「なかなかちょっとした地震だったわね」服についた土や草を払い落としながら、Gemmaはつぶやいた。彼女は細心の注意を払いながらリバーベイルへと戻っていったが、その途中で、がけができていたり道が倒れた木でふさがれたりしているのを発見した。普段でさえGemmaの歩みはその年によって遅くなっていたのだが、今や彼女は不案内な場所を道を探しつつ歩かなくてはいけなかった。そこは見慣れた場所であり、同時にまるで知らない場所でもあった。そして続く数日のあいだ、大地は震え、苦悶の叫びを上げるのだった。
最初の地震の後、いつになく濃い霧が何日も地上を覆った。ゆれがついに収まってきたとき、Gemmaは数人と連れ立って被害の状況を調べて回った。霧はまだ晴れていなかった。新しくできたがけのふちに立ち、Gemmaは息を呑んだ。リバーベイルとミスティーの雑木林は灰色の霧に囲まれ、そして地平線に向けて木々が波のように連なっていたはずのところには、逆巻く波に白く泡立つ海が広がっていたのだった。

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