『最後の旅路』『スプリットポウ騒動記 ― 第1部』『スプリットポウ騒動記 ― 第2部』完成

三冊とも、FP市内で拾う本です。
フェイドワーはEQ1で「妖精大陸」と呼ばれ、エルフ族や、ノーム・ドワーフの故郷でした。
Butcherblockはドワーフの住んでいた山岳地域の名称。
EQ1では実際に大陸間で無人船が行き来しており、かつては釣竿と釣り餌を抱えて乗り込んでは一時間近くかけて船で移動していました。

* * *

『最後の旅路』

この物語は、商船“カトヤ号”とその船長がフェイドワーへ向かう最後の航海についての話である。

あらゆるところで物資は不足していた。貴族、管財人、酒場の主人、女支配人、商人、召使いたちが波止場に長い列を作り、船から降ろされる荷物に今にも飛びつこうとしていた。それを見たMercedは満足そうに頷いた。商品の価格は上がりっぱなしだった。あと1度の航海を終えれば、やっと仕事をやめて優雅に暮らすことができるのだ。

Mercedは昔から船を持っていたわけではない。彼の家族は、戦争の末期に地下に隠れて生活をしていた。混乱が落ち着いたときにだけ、地上に顔を出していた。父親は、手頃な値段の小さな船を手に入れ、輸送業を始めた。主にButcherblockとフリーポートの間で乗客を輸送していたが、報酬が良ければTimorous Deepにまで船を出すこともあった。

彼は今、“カトヤ号”の船長であるが、年もとったので引退を考え始めていた。Merced は自分で船倉への荷積みを監督していた。密輸品の酒をしまう場所も当然把握していた。港が少し揺れ、荷物を積んでいた船から桟橋に掛けてあった板がずれた。そのとき高価な荷物の箱が海の中に落ちてしまった。

「今週はついてねえな。誰かに荷物を取りに行かせるよ」一等航海士のVirgilはぼやいた。Mercedは頷いた。「早めに出発したほうがよさそうだ。最近、陸がうめき声をあげてるのが、どうも気になるからな」海に落ちた箱を回収し、商品の報酬を受け取るとすぐにカトヤ号は出航した。

カトヤ号は港を出ると、風に乗って進んでいった。Mercedは小さな船室に戻り、一番好きな仕事に取りかかった。それは今回の航海でいくらの儲けが出て、その儲けで何を買うかを考えることだった。ある時は、自分の船団に荷物を運ばせながら自分は家でゆっくりしている姿を想像した。またある時はたくさんの召使いを従え、フリーポートで見つけた娘と一緒に生活することを想像していた。お気に入りの娘のことを考えているときに、大きな波がやってきた。

船上の生活に慣れているMercedには、外海の波が高いことぐらいは知っていた。しかし、この波は普通ではなかった。船は鐘のように左右に大きく揺らいだ。立っているのが精一杯のMercedは、よろけながら小さな部屋のドアまで辿り着いた。ドアを開けた彼は驚いた。外には一面に青空が広がっていたのだ。カトヤの激しい揺れから、彼は嵐に巻き込まれたと思い込んでいたのだ。

「嵐ではないですね」Virgilは気を引き締めるような口調で言った。彼は別の船員と共に必死に舵をとっていた。「Prexusが何か悪いもんでも食べて、腹を壊したんでしょう」Virgilは言った。Mercedは海に目をやったが、次々にやって来る巨大な波しか見えなかった。そのとき、カトヤは大きなうねりに巻き込まれ、白い泡を吹く大きな波をかぶった。

「ちくしょう!」Mercedは叫んだ。レールにつかまりながら舵輪のほうへ向かった。Prexusがなんで暴れているのかはわからねえが、カトヤ号を巻き込むわけには行かねえ。帆を降ろせ! 風で引っくり返っちまうぞ!」Mercedの命令に船員はすぐに反応した。経験を積んだ船員でも、これほどの波に打たれながら行動するのは難しかった。しかし、苦労の末、カトヤの揺れは小さくなり、なんとか波に飲み込まれず流されていった。

カトヤは大きな波に打たれながらも、徐々に安定した体勢になっていった。船員たちは、船室に潜り込み、その木製の船体がきしむ音を聞きながら怯えていた。Mercedは皆を勇気づけるため叫んだ。「嵐なんて今まで何度も経験してきただろ!」確かに彼らは多くの嵐に遇ってきたが、原因不明の巨大な波は一度も見たことがなかった。

波の激しさは変わらなかったが、カトヤは長時間、耐え続けた。しかし、突如、波にさらわれた別の船が現れた。その帆は完全に破れており、船員の姿も見えなかった。そしてカトヤに衝突し、船体に穴を開けた。Mercedは密輸の酒が入った箱を自分の周りに置き身を守っていたが、船体は真っ二つに折れていった。上空には雲ひとつない青空が広がっていた。


* * *

『スプリットポウ騒動記 ― 第1部』


スプリットポゥのノールは、ラロシアンが思うよりも手強い相手であることを自ら証明した。しかしその経緯は少し変わっていた。第1章では、スプリットポゥのノールのスカウト、Gippyが登場する。

その日の見張りはGippyの番だった。出番を替わってもらえるように仲間のFlemmに話をつけて、金まで払っていたのだけれど、ところが肝心のFlemmときたらすっかりそのことを忘れてしまっていたらしい。スプリットポゥの穴ぐらに住まうノールの皆が気付いたときにはもうすでに、ラロシアン帝国の軍勢は進軍に一日もかからないほどの距離にまで歩みを進めていたのだった。

ノールの住み家の名称は定期的に変わるのが長年の慣習になっていた。その名称はその時々の、もっとも勢力のあるクランに拠るものだったが、この季節全権を握っていたのがスプリットポゥだった。そしてGippyは、スプリットポゥの皆から快く思われていないノールだったのだ。

「あいつらの数、見てみろよ。どの隊列もどの列も、鎧しっかり、武器ばっちりの完全装備してやがる」スプリットポゥの現族長であるMuddyが、あてつけのようにそう言った。「なあ、Gippyよ。こちらとしてもおまえみたいなやつはお断り、もうけっこうだ」Gippyは思わずFlemmのことを蹴っ飛ばしたが、返事ひとつも返ってこなかった。「もうこれ以上おまえのことを信用することはできないよ。これ以上おまえに任せる仕事はない。でもせっかくだから、これからおまえをオーガのところに飛ばすことにする。いいか、Gippy。おまえ、あそこまで出向いて行って、オーガのやつらがいったいどこに向かっているのが探り出してこい。まあ恐らくは俺たちのいるここではなくて、どこかよそにでも向かっているのだろうけど、自分のためを考えるのならおまえは黙って行って来い」

Gippyはぶつくさぶつくさ呟きながら武器庫まで出向き、装備一式を見繕うことにした。たいていのノールは自分の装備を持っているものだが、Gippyはこれまで自分のものを買えるほどの金を貯められた試しなんてなかった。買えないのなら自ら一丁こしらえるのもありかもしれないが、怠け者な彼がそんなことをするべくもない。だが幸運なことに、ノールはカラナ平原にて見つけたものを一族のために蓄えており、兵として戦場に赴く者には気前よく貸し出してくれるのだ。

「だからさあ、胸のところに穴なんて空いてないやつ貸してもらえないかな」Gippyは倉庫のおやじに聞いた。

「貸してやった鎧の胸のところにでっかい的がついてないだけ、お前さんは運がいいんだぜ。わかってんのか?」おやじの方は文句を返した。「わかったらとっとと行っちまえ!」

自分の力を認めてくれる相手はいないのだなあということを、Gippyもうすうす感じていた。なにしろ銅貨一枚の持ち合わすらないのだ。仮にわずかに持っていたとしても、それをどうにかして増やす方策なんて知らないし、ためになる使い方をすることもできなかった。そう、Gippyには蓄えというものがなかった。でも彼は気前がよかった。点呼のときに代返したり、歩哨の仕事を交替したり、スカウト隊に属するノールの半数がそういった仕事を肩代わりすることでGippyから小銭を手に入れたことがあるはずだ。

けれどもなあ、とGippyは真剣に考えた。Flemmのやつったら、頼んだことをほったらかしにするなんて、まったくあてにならないよな。でも他に、いろいろなことを替わってくれるやつなんていたっけなあ。この期に及んで、まだそのようなことを考えていたのだ。

オーガの進軍は堂々としたもので、見つからないようにこそこそしたり、人目をはばかったりということはまるでなかった。彼らはアヴィアックの町を取り囲み、徹底的に破壊を行い、地に沈めた。Gippyは恐怖に取り憑かれたような面持ちでその一部始終を眺めていた。あんまり夢中になりすぎていて、ラロシアン兵がすぐそばにくるまで、それこそ目と鼻の先にやってくるまで、まるで気が付かなかったほどだった。

「やめろ、やめてくれ。手を離せよう!」Gippyは苦悶にもだえて叫ぶ。ラロシアン兵はそれを見て笑った。「ばーか、離すわけねえだろうが。俺についてきて、知ってること洗いざらいはいちまえ」

「これは、まずいことになったなあ」と、Gippyは悲痛な気持ちになった。ラロシアンのスカウト兵に連れられて、いきなり敵軍の真っ只中に連れて行かれてしまうのだ。これから何が待ち構えていて、いったいどうなってしまうのか、さっぱりわからない。だがわからないなりにひとつだけはっきり言えたのは、Gippyがポケットをいくら探っても、銅貨の一枚も入っていなかったことだけだ。これでは誰かに金を払って身代わりになってもらうことなんてできやしない。ましてやオーガにお引取り願うなんて無理な相談だ。頭の中には次々と様々なシナリオが思い浮かぶ。けれどもどれもが不幸な結果に幕を下ろしてしまうのだった。串刺しにされるGippy。キャンプファイアで丸焼きにあぶられるGippy。あるいはオーガの夕飯として食卓にのせられるGippy。眠気もきれいに覚めてしまうような散歩だった。

スカウトに連行されたGippyは、オーガの上官の前に突き出された。「なんだこいつは? 戦場にペットなんて連れてきたのはどこのどいつだ?」うなるようにして上官は笑った。Gippyを連れてきたスカウトのオーガも上官につられるようにして笑い、Gippyもあわせて笑おうとしたのだが、口からもれたのは神経質ぎみな、くうんくうんというような甲高い鳴き声だけだった。「おい、犬ころよ。おれたちのことを監視して、いったいどうするつもりだったんだ?」Gippyをぐいと引き寄せて、オークの上官がぴしゃりと言う。あまりに顔が近すぎて、この上なく臭いオーガの息がGippyの顔を包みこむ。吐きそうになるような息だった。

「どうするかって? どうって、きみたちを待っていたんだよ! 遅かったじゃないか。もう二日前には到着しててもおかしくないって、きみらのボスは言ってたぞ」ここでGippyは切り返す。声にできるだけありったけの怒気を、たっぷりこめられるだけこめて。それを聞いたオーガはこぶしを丸め、脅すようにして訊いた。「ボス? ボスっていったいどういうことだ? もしかしてウルドゥーク将軍のことを言ってんのか、犬ころ?」「だってその人、君らの中でいちばんえらい人なんだろう?」軽蔑するようにGippyは返す。「あの人がここにいなくてよかったね。じゃなきゃ、きみがいま僕にしてるのとおんなじやり方で、きみの皮をぺりぺり剥いでしまうところだよ。でもかわいそうに。遅かれ早かれこの話、あの人の耳にもきっと届いてしまうのだろうけど!」

オーガたちの間に不安がよぎる。こいつはいったい何なのだろう? 皆が視線を交し合う。ウドゥーク将軍はこまめに連絡をとる方で、さまざまな民とともに進み、そうすることで全軍の進軍を早めようとしていることは皆知っていた。……だが、それがノール? こんなに仕立ての悪い、しかも胸のことろにでっかい穴なんて空いた鎧を身に着けたノール?

「話、もしかして通ってないの? まさかまじめに僕のこと知らないってことはないよね?」Gippyはオーガたちに生まれた困惑をとらえ、ここぞとばかりに畳み掛けた。「ウルドゥーク将軍は、もしかしてきみのこと信用してないのかな。いや、それとも僕が信用されてないってことなのか」そして大げさなため息をもらし、上官に向けて哀れむような眼差しを送る。

「そんなことはない! 将軍はちゃんと、俺を信用してくださっている!」上官は大きな声で叫んだ。部下たちみんなに聞こえるようにしたのだろう。「俺たちは戦争をしていたんだぞ。だから、うっかり……ちょっとだけ忘れちまってたんだ。そうだ、おまえをからかって、ちょっと遊んでいただけさ。わかるだろ、毛むくじゃらよ?」上官はまた笑ったが、今度のは豪快なものではなかった。いささか用心している気配がうかがえた。「じゃあよ、なんでおれたちのこと待ってたんだ?」

ここでGippyは埃でも払い落とすかのようにぱんぱんときれいに両足を払った。それからきちんと鎧を正し、横柄な顔を作って返答をした。

「なぜって、きみたちを案内するためさ!」

* * *

『スプリットポウ騒動記 ― 第2部』


ある特殊な理由により、スプリットポゥのノールはラロシアンが予想していたよりも手ごわい敵だった。第2部では、Gippyは両軍を相手に活躍する。

「で、General Urduukはスプリットポゥからガイドを雇ったわけか。ん?」ラロシアンの隊長は、考え込んだ。あまりにも長くそうしているので、Gippyは彼が何かワナをかけてくるに違いないと思うほどだった。ついに隊長はうなずくと、大声で叫んで言った。「将軍は我らの必要を満たしてくださる! アバターの右腕、Urduukに栄光あれ!」ラロシアンの全軍がその叫びに同調し、Gippyもまた一緒になって声をあげた。頭の中では、こう考えながら。「この耳鳴りはいつおさまるだろう? それに、将軍は腕……何の腕だったっけ? その腕を使ってどうしようっていうんだ?」

ラロシアンはGippyによいアーマーを支給してくれた。死んだ敵から奪ったものではあったけれども、とりあえずこれは胸のところに穴があいていたりはしなかった。Gipppyはオーガがますます好きになりつつあった。彼らはGippyを骨投げのゲームに誘ったが、Gippyは断った。彼は隊長に言った。「スプリットポゥに行って、あいつらを油断させておきます。ノールがどんなに用心深いかご存知でしょう?」隊長はノールのことなど知らなかったが、将軍にじきじきに仕えている人物に言い返す気もなかった。

Gippyはゆっくりとラロシアンの野営地から離れていき、矢の届かないところまで来たことを確認すると、まるでラロシアンの全軍に追われているように駆け出した。「俺はどうすればいいんだ?」走りながら、彼は何度も自分に問いかけた。このむちゃくちゃな状況を切り抜ける方法をいろいろ考えてはみたが、どれもこれも行き着くところは同じだった。のどを掻き切られるか、火あぶりになるか、それともシチューの具になるか。

洞窟に着くと、彼はまっすぐに自分の部屋へと向かった。帰ってきたことを知られる前に荷物をまとめなければ。しかし、Muddyはまだ子犬のころからGippyのことをよく知っており、彼の手の内は全部知られていた。Gippyが勢いよくドアを開けると、そこにはガードが二人待っていた。Gippyは彼らにはさまれながら、曲がりくねった道を通ってMuddyのところまで連れて行かれた。

「それで? オーガどもは何をしようとしているんだ、Gippy?」Muddyはきつい調子で聞いた。「彼らはアヴィアック族の村を滅ぼしました。今はこっちに向かっています。荷物をまとめて逃げなきゃ!」Muddyは唇を巻き上げて牙をあらわにして言った。「Gippy、おまえは何でそんなものを着ているんだ? それは敵の色じゃないのか?」Gippyは自分の着ているものを見下ろして、肩をそびやかした。「いや、スカウトですし……。紛れ込むのにちょうどよかったんです。カモフラージュですよ」

「わかった。荷物を持ってここを出よう。Gippy、おまえが何をしようとしているのか、それはわからん。しかし、おまえが何かを隠している事がわからないようなら、俺はゴブリン並のバカ者だ」Muddyは噛みつくように言った。「おまえはしんがりのガードたちと一緒に残って、オーガどもを昔ながらのノールの方法で歓迎してやるんだ。いいな?」そう言うとMuddyは牙を隠し、笑顔に戻った。「わかりました!」きびきびと敬礼をしながらGippyは言った。昔ながらのノールの歓迎法って、いったい何のことだ?

「待て、あれは何だ?」Muddyは突然そう言って、耳を動かしながら舌で空気の味を確かめた。Gippyにもそれは聞こえた。かすかな、何かをたたくようなリズミカルな音が洞窟の床から足に伝わってくる。「わかりません」Gippyは言った。「でもいいノリですね!」MuddyはGippyの背中をどやしつけると、吠えるように言った。「このバカ者が。あれは戦いのドラムだ! オーガはもう近くまで来ているんだ!」

困難な状況において落ち着きを保つのは、ノールの得意とするところではない。オーガのドラムが近づいてくるにつれ、洞窟の中は大騒ぎになっていった。自分の命を救おうと右往左往するノールたちのポケットを、Gippyは片端からすってまわった。新しいアーマーのポケットを銀貨でいっぱいにした彼は、ガードのいなくなった入り口に向かい、ラロシアン軍が近づいてくるのを見守った。

この距離からだと、オーガ軍のどの隊も同じに見えた。Gippyは眉をしかめ、彼がガイドだという嘘っぱちを信じた隊長をどう探せばよいか、考えた。戻ってきたのは、あまりいいアイデアではなかったかもしれない。Gippyは、いろいろと計画を練るのをあきらめた。どんな計画を思いついても結局は望まない終わりに結びついたからだ。Gippyはもう少し戦局を楽観的に見たかった。

ラロシアンにとってみれば、どのノールも同じだった。ガイドがいなくなっていることに彼らが気づいたのは、彼らが洞窟に攻め入り、ノールを見つけ次第叩き潰した後だった(キッチンで眠りこんでいたFlemmも犠牲になった)。Gippyの死体はその後、入り口近くで見つかった。矢でハリネズミのようになったその死体は、まだラロシアンのアーマーに包まれていた。


ブログランキング